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2012年10月28日 (日)

映画「希望の国」の紹介

映画「希望の国」の紹介

 監督の園子温(ソノシオン)は、前作「ヒミズ」で主人公を津波の被災地に立たせたことで話題になった。「ヒミズ」は2001年に雑誌で掲載された青春漫画であり、地震や津波とは無関係の原作で、人が埋まっているかも知れない津波の被災地を撮るのは不謹慎だという非難も受けていた。2011年3月11日は、園にとって「ヒミズ」のシナリオを仕上げている時期だった。しかし、3・11を経験したとき、それを忘れたふりをして2001年の青春を映像化することはできなくなっていて、シナリオを書き直したという。被災地での撮影には長い長い葛藤があったし、非難も覚悟の上だった。撮影は若いスタッフの申し出で、津波に浸かった実家が提供され、その両親からも是非撮って欲しいといわれたそうである。被災地を報道の記録としてではなく、映画の場面として「情感を記録」したかったという。「ヒミズ」の撮影が、2011年5月。希望の国を撮影するために出向いた2011年末には、その場所は全くの更地になって、被災地の面影はなくなっていた。本物は、瞬間にしか撮れない。

 園監督は、いわゆる社会派ではない。ただその時々起こった事件(事実)を題材にし、自分でも「快楽で映画を撮るんだと、いつだって嘯いて今までやってきた俺がどうして、いつのまに苦しんで撮るようになってきたんだろうか。」と言っている。そして、自分の好きにやっているうちに、好きでもないゾーンに入り込んで「やらなくちゃいけないんだ」という暗い洞穴に立っていたという。

 「ヒミズ」を撮っていた2011年5月には津波と原発の区別なしに被災地と思っていたが、その後、原発をはっきり意識し、原発を撮らなければと思うようになったそうである。 場面の設定は、福島の後、数年経った日本の長島県。(当初は、2013年1月中旬と考えていたらしい。)長島県は、長崎・広島・福島を重ねた。酪農家の生き生きとした生活、おおらかで、温かな人たちの暮らす地域が先ず映し出される。そこに、地震・津波・原発事故・・・福島の今の現実が襲う。情報が入らない。テレビのニュースは、福島の時と同じで、爆発の映像と通り一編の解説だけである。認知症の妻の「原発ができたの?」「お父さんは原発嫌だったのに残念だね。」という言葉から原発の危険性や放射能の怖さも知り、建設に反対していた父親の人間像と、原発の理不尽さがみえてくる。家の庭を横切る20km圏内立ち入り禁止の杓子定規な線引き、空気はつながっているのに隣は皆避難し、取り残された家族。漫画のような現実がある。若い者はこんな所にいたらいけないと、父親はたくさんの放射能関連の本をもたせ若夫婦を家から追い出す。避難途中では、長島ナンバーをみて、ガソリンスタンドで、給油を断られ、長島から来た子どもがいじめられる場面に遭遇もする。若夫婦の避難した場所は、原発から20kmの自宅より線量は低いが、放射線管理区域にあたる高線量の場所であることに変わりない。人の忘れっぽさなのか、においも色もない放射能の性質故か、マスクもなしに皆があたりまえの日常生活にもどっている。テレビは、ひとりだけマスクしているとみんなに嫌がられるし、暗い気持ちを忘れたいからどーんと構えていたらいいという主婦の意見を大きく映し出す。そんな中で、妊娠を知った若夫婦は防護服に身を包み、おなかの赤ちゃんを守ろうとする。誇張されてはいるが、放射能を心配して行動することに対し、「いつまでそんなことしてるのか。」「国が大丈夫といっているのだから。」と非難する今の福島そのものである。そして、「逃げることは強さだ。」という父の言葉に押されてさらに遠くへ逃げる。

 この家族と、20km圏内で強制避難させられた隣家の様子が絡む。さらに20km圏外の酪農家の家にも強制退避命令、牛の殺処分命令が出され、町役場の人間が立ち退きを迫る。ついに父親の決意を見ると、「希望の国」は皮肉なのかと勘ぐってしまう切ない結末であるが、こうしないと福島の現実を伝えきらないと監督は考えたのではないか。希望は過酷な環境の中でそれでも一歩、一歩、歩み始める若者と家族の思いやりに託したのだと思う。

 福島を撮るというと、今までの実績もあり人気もある映画監督でもスポンサーは手を引き、海外からの支援も含めてわずかな資金で撮影をしなければならなかった。でも、園子音は福島を撮り続けていくそうである。

 取材の中で、国に対しては怒りをぶつけても、東京電力に対しては怒らない人たちが多かった事もあってか、「悔しい、悔しい。」という台詞は、はっきりとした相手をもたない。事故を起こした「日本電力」を直接非難する言葉はない。闘いが見えない。福島を思い続けるために、また、その理不尽さを共有するために是非多くの人に見て欲しい。しかし、観客が「何とかしなければ」と行動につなげたり、一緒に闘おうという気持ちになるのは難しい。次回作に期待したい。

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