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2012年10月17日 (水)

シカゴ教職員組合2万9000人のストライキ

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シカゴ教職員組合2万9000人のストライキ
教職員組合が先頭に立って、「子どものための教育改革」を掲げ、シカゴ市から譲歩を勝ち取る

 日本のメディアでも取り上げられた米国シカゴの教職員のストライキについて、少し調べたことを報告します。シカゴ市の攻撃は、大阪の橋下・維新の会が強行している教職員攻撃、市場主義的な競争教育による教育そのものの切り捨て、差別・選別教育に酷似した自治体首長による攻撃であり、何か教訓を引き出せないかと考えたのです。もちろん、米国と日本、シカゴと大阪には大きな違いがあり、そのまま普遍化することはできないのですが、それでも何か得るべきことがあるはずです。
 ほとんどの情報は、シカゴ教職員組合(CTU)のサイトと米国の様々な英字メディアから得たものです(9月20日時点の情報)。簡単な紹介の後に、ストライキに入るに当たってのCTU委員長の声明、そしてストライキ宣言とも言える「なぜシカゴの教員はストライキをするのか」を翻訳しました。併せてご覧ください。
                                   2012年10月13日   小津

シカゴ市による新自由主義「教育改革」攻撃橋下・維新の会の攻撃と酷似

 現在の日本にいたら想像できないことですが、CTUの組合員2万9000人が、この9月10日から18日まで9日間、1987年以来となるストライキを行ったということにまず驚かされます。しかもその結果、教職員達は一定の譲歩を獲得し、ストライキを終結させ、整然と9月19日に仕事についたのです。米国でさえ本格的な組合運動が少ない状況の下で、この事実だけでも大変な成果だと思います。

 さて、ストライキの目的です。確かに日本のメディアでは、生徒学生の標準試験(いわば学力テスト)の結果に教員評価を連動させる制度で、それによって教員の雇用を不安定化すること、また成績のよくない公立学校を「チャータースクール」という形で事実上民営化して切り捨てていくことにありました。教員の評価制度と学校選択制に揺れる大阪のそれと非常によく似ています。
 この新自由主義的「教育改革」を推進しようとしたのは、オバマ大統領の前首席補佐官・現シカゴ市長のラーム・エマヌエル、そしてそれを中央で指揮しているのは、元シカゴ市教育長で現在オバマ政権の教育長官であるアーン・ダンカンです。ある意味、シカゴの「教育改革」は、全米のモデルケースなのです。

  ストライキ目的をなすCTU側の包括的な提案

 日本のメディアでは、日本の「教育改革」との類似性だけが強調されたのですが、実は、シカゴ教職員組合(CTU)が昨年11月から当局と続けていた交渉の内容は、私たちが考えている以上にもっと全面的かつ包括的なものでした。その上で、CTUは今年2月に学校教育に関する包括的な提案を行ったのです。実際、この包括的要求を背景に、子どものための教育を実現するという点で一歩も引かず、ついにストライキに突入したのでした。

 CTUが作成し今年2月に発表したこの提案は、「シカゴの生徒学生が当然享受すべき学校教育――シカゴ公立学校における初等中等教育を強化するための調査研究にもとづく提案――」と題し、次のような内容項目を含む包括的なものでした。
 すなわち、小規模クラス、総合的なバランスのとれたカリキュラム、適切な支援体制、社会的公正、教育上のあらゆる設備環境の平等な教育、専門職としての教員とそれにふさわしい待遇、質の高い学校諸施設、保護者と提携協力する学校システム、十分な教育予算、等々。

 そこでは、シカゴの子どもたち40万人のうち80%が貧困層でマイノリティが多いという事情も十分考慮されています。CTUは、独自のしっかりした調査研究にもとづく包括的な提案に依拠して、市・教育委員会側の「教育改革」を正面から批判したのです。貧困、暴力、ホームレス、飢餓など、教員のコントロールを超えた社会的問題を考慮に入れて、「子どもたちが当然受けるべき教育」ということを本格的に論じました。それらが日々の教育実践とあわせて、親たちや地域住民の支持を得たのです。それはまた、全米で同じような闘いをおこなっている教職員が注目し連帯と支援が短期間で急速に広がる事態となったのです。

  公立学校の事実上の民営化=「チャータースクール」

 「チャータースクール」とは、保護者、地域住民、教師、市民活動家などが目標を設定して学校の設立を希望し、その運営のための教員やスタッフを集めて設立の申請をおこない、認可された場合、公的な資金の援助を受けて学校が設立されるというものです。端的に言えば、公立学校の民間委託なのです。運営は設立申請をおこなった民間のグループが担当し、教職員や保護者の声は排除されます。そして、所定の年限の内に目標の達成や就学児童が集まらない事態に陥った時には学校は閉校になります。つまり、底辺校から廃校にしていく手段に過ぎないのです。

  公教育を守る保護者・地域住民との連帯・協力

 他方で、このような動きとは対極をなす公立学校擁護の運動があります。CTUがその先頭に立っているのですが、親たちや地域の代表者たちが参加する組織も複数存在します。「CODE(民主的教育のためのコミュニティ)」は、親と地域の人々と教職員の連合組織で、公選制の教育委員会を実現することによって公立学校にシカゴの多様なコミュニティの声を反映させようとするものです。「CORE(現場教職員の会)」は、退職教職員や教育補助スタッフと親や地域の人々も参加し、教職員組合が教職員の利益と生徒学生の利益の両方のために闘うことを目指し、平等な公教育を実現しようとするものです。
 今回の闘いの勝利は、教職員組合が、このような親や地域の人々、退職教員などが参加する組織と信頼関係で結ばれ緊密に協力した結果なのです。

  勝ち取られた合意

 CTUは、市・教育委員会との間で次の内容で合意したことでストライキを収束させ、全組合員の投票で正式にこの合意を受け入れるかどうかを決定することにしました。一つ一つの合意は小さいな成果かもしれませんが、これだけまとまれば、大きな成果です。

・美術、音楽、体育、その他の教科の教員を、600人以上追加雇用する。
・クラス規模の従来の制限を維持し、より小規模クラスのための予算を増額する。
・クラス規模委員会に保護者の声を加える。
・学校がはじまる初日に教科書を利用可能にする。
・シカゴ公立学校での雇用における人種的多様性を増やす。
・標準テストへの焦点化を減少させ、テストではなく教授内容重視を維持する。
・学校のソーシャルワーカーと看護師による注視ケアをいっそう充実させる。
・学校での特別教育の教員、ソーシャルワーカー、心理療法士、クラス・アシスタント、カウンセラーの予算を増やし、取扱件数を増やす。

  闘いは続く

 もちろん、合意だけで事態が改善するわけではありません。CTUも「闘いは続く」と述べています。
 私たちが特に強調したいのは、第1に、「シカゴの生徒学生が当然享受すべき学校教育」という包括的な提案を前に出したこと、これをストライキ宣言として、保護者・地域住民に対して、自分たちはなぜストライキをするのかを鮮明に打ち出したことです。第2に、保護者・地域住民との連帯・協力こそが、様々なバッシングをはね返して9日間ものストライキを闘い抜き得た理由になったことです。
 CTUのある組合活動家は、これまで教職員と教職員組合は自分たちの個々の賃金や労働条件の要求や交渉を行ってきたが、今回はこれまでとは違い、子どもたちのための要求という観点から、包括的な要求を掲げて闘った、と述べています。教職員組合の地道で子どもに寄り添った長い活動抜きには簡単に実現し得ないことですが、非常に大切な教訓ではないでしょうか。

 今回のシカゴ教職員組合のストライキは、ウィスコンシンの闘いの敗北の後を受けて、今後の米国における階級闘争の動向を大きく左右する重大な闘いでした。それはまた、労働組合が民主党支持で闘えるのかという重大問題を再度浮き彫りにしました。

 それだけではありません。「教育改革」という形をとって、右翼的反動化と公務員バッシング・労働者への攻撃が激しくなっているのは、全世界的な傾向でもあります。カナダのケベック、チリ、フランス、イタリア、イギリス等々、グローバル化と新自由主義の蔓延の中で、医療・福祉とともに真っ先に教育が切り捨てられています。これらの国々では、学生達が教職員と一緒になって政府への抗議活動に動き始めています。それへの反撃の糸口をつかむためにも、世界の闘いから学ぶことが重要となっているのではないでしょうか。

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【翻訳1】シカゴ教職員組合(CTU)の声明
by カレン・ルイス委員長 2012.9.10
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 「交渉は激しく深刻なものでしたが、実り多いものでもありました。しかしながら私たちは、ストライキを回避する合意に達することができませんでした。これは困難な決定でしたし、できることなら避けたいと望んでいたことでもあります。交渉を通じてずっと、私は希望を持ち続けてきましたが、決断することになりました。私たちは、およそ学生たち生徒たちに当然の権利として受けるべき教育を提供しようと思えば、この街で今とは違ったやり方でやらなければなりません。
 「話し合いは多くの領域で実りあるものでした。私たちは、乳幼児を抱える母親について首尾よく譲歩を勝ち取り、500人以上の組合員が仕事に戻れるようになりました。(訳注:教員は女性が多数を占めるようになってきており出産に伴い退職を強要される場合が多くある。)私たちは、生徒たち学生たちのために、美術、音楽、世界の言語、技術、体育のクラスを、ある程度回復することができました。教育委員会はまた、私たちが教材を受けとるまでに6週間も待たねばならない状況から、学校が始まる初日に教科書を受けとれるようにすることに同意しました。
 「私たちは、教育委員会の財政的な悩みを理解していますので、給与に関してはそれほど意見を異にはしていません。しかしながら、社会保障給付金では意見が大きく隔たっています。私たちは、現行の健康保険給付を維持したいと望んでいます。
 「もう一つ別な関心事は、評価手続きです。新しい評価システム導入後1~2年で、6000人の教員(組合メンバーのほぼ30%)が解雇されるという結果になりうるでしょう。これは受け入れることができません。私たちはまた、新たな評価のあまりにも多くが、生徒たち学生たちの標準テストの点数にもとづくということにも、強い関心を持ち懸念しています。これは、教育の有効性を測定する方法などではまったくありません。さらにまた、生徒たち学生たちが標準テストでどれだけいい結果を残すかということに大きな影響を与えるファクターが、私たちのコントロールの範囲を超えて、あまりにも多く存在します。貧困であったり、暴力にさらされていたり、ホームレスであったり、飢餓にさらされていたり、その他、私たちのコントロールを超えた社会的問題です。
 「私たちは、仕事が保障されることを求めています。新たなカリキュラムと新しい厳格な評価システムにもかかわらず、CPS(シカゴ公立学校)の側は、教員の訓練を増やすことをまったく提案していません。削減しようとさえしています。これは注目すべき重要なことです、というのも、私たち組合は「問い合わせセンター」を通じて、イリノイ州の教員職業訓練を展開する最前線にいるからです。私たちは、この地域で、また国中の同僚たちに、広範な教員訓練プログラムをもっていることで賞賛されてきました。それは、新任教員が技能を高めることを支援し、また資格認定された教育者を全国的に増やすことに貢献してきました。
 「私たちは、教室にエアコンを設置する合理的なタイムテーブルを求めています。蒸し暑い98度(訳注:華氏98度はおよそ摂氏36.7度)の教室は、子どもたちにとって実りある学びの環境ではありません。このような環境は、私たち組合員にとってもすべての学校スタッフにとっても受け入れがたいものです。気候コントロールの欠如は、子どもたちの保護者にとっても受け入れがたいものです。
 「私たちは誠実に交渉を続けていますが、そこにおいては、より小規模のクラスや、より良い学校生活や、公選制の教育委員会などを主張している地域の諸組織、保護者、聖職者と連帯しています。クラスの大きさは大きな問題です。それは保護者にとっての問題でもあります。イリノイ州で第3番目に大きい学区で、ソーシャルワーカーはたった350人しかいません。それは一人がほぼ1000人の生徒学生に対応するということです。私たちは彼らとともに、もっと多くのソーシャルワーカー、カウンセラー、視聴覚技術専門家、学校看護師を要求します。子どもたちは近隣で、前例のないレベルの暴力その他の社会問題にさらされています。そのため、十分な対応を求める闘いが私たちすべてにとって緊急に重要なものとなっています。私たち組合員は、これらの懸案に関する、保護者の方たちの大きな行動のうねりと草の根の関わりを支持し続けます。そして私たちは、教育委員会がこのような声をシャットアウトしないように望みます。
 「イリノイ州の新しい法律は、私たちが解雇された教員の復職を求めたり、単年度より長期の給与を求めたりしてストライキをするのを禁止していますが、私たちは、これらの諸問題が解決されるまで、協定にサインするつもりはありません。
 「今一度強調しますが、私たちは、契約が成立するまで交渉のテーブルにとどまるつもりです。しかしながら、この朝はCTUの組合員はひとりも学校内にはいないでしょう。私たちはピケットラインをつくって行進します。そして生徒たち学生たちの保護者に語りかけます。聖職者に語りかけます。地域の人々に語りかけます。私たちの話に耳を傾けてくれるすべての人に語ります。私たちは公正な契約を求めているのです。今、私たちが求めているのは公正な契約なのです。そして、私たち組合員が受け入れられるものが提示されるまで、私たちはピケットラインに立つつもりです。
 「私たちは、国中でそれぞれの地域で自分たち自身の公正な契約を求めて目下交渉中の兄弟姉妹たちと連帯しています。生徒たち学生たちの最善の利益のために、自分たちもストライキの準備をしていると明言している人々と、私たちは連帯しています。
 「今このお知らせによって、保護者の方々と地域の方々に今回のことを知っていただき、そしてまた、明日も学校が開かれないということを知っていただきたいと思います。子どもたちには別なケアをしてあげていただくようにお願いします。そして私たちは、公正な教育――そしてまた公正な契約――を求める私たちの闘いに、すべてのみなさんが加わっていただくよう、また市長と教育長にこの事態を一刻も早く解決するように求めていただくよう、お願いします。ありがとうございます。」

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【翻訳2】なぜシカゴの教員はストライキをするのか
by Arise Chicago 2012.9.11
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(訳注:「Arise Chicago」は2010年末に立ち上げられ、シカゴ教職員組合(CTU)の闘いを支援し、その広報的な役割を果たしたサイト。)

 シカゴ教職員組合(CTU)は、昨年11月以来、公正な雇用契約を求めて交渉し続けてきました。教職員は、この6月30日以降、無契約状態で働き続けてきました。当然ストライキがあってしかるべきですが、それは単に給与のためだけのものではありません。教育委員会は給与と健康保険を結びつけた提案を出してきましたが、それは給与の実質減少に帰着します。法的には、組合は給与問題についてだけしかストライキができないことになっていますが、このストライキは多分に、シカゴのすべての学生・生徒にとっての質の高い公教育を防衛するための闘いです。それは、CTU委員長カレン・ルイスが宣言したように、「公教育の魂のための」闘いでです。
 10ヵ月にわたる交渉において教育委員会は、組合が提起した中心的な問題、つまり「シカゴの生徒学生が当然享受すべき学校教育」(訳注:今年2月にCTUが発表した包括的な提案)をつくっていくという問題について、交渉することを拒否してきました。教育委員会が交渉を拒否してきたのは、次のようなことについてです。クラスのサイズについて、すべての学校に看護師とソーシャルワーカーを置くということについて、すべての学校に図書館を設置することについて、組合がなく教員と保護者が全く意見を言えない「チャータースクール」(訳注:民間委託された公立学校)をつくることで公教育を民営化しようとするのではなく、そのかわりに地域に密着した公立学校に資金をまわすことについて、などです。今回のストライキは、国中の教職員が、労働者の権利の擁護者が、公教育の支持者が注視しています。
 ストライキの初日には、朝から数千人の教職員が学校の外でピケットをはりました。午後には、10000人の教職員と支持者たちがシカゴの中心部を行進し、シカゴ公立学校当局に抗議し、市役所を取り囲みました。当サイトのスタッフとメンバーは、ストライキ本部で「シカゴ教職員連帯キャンペーン」を支援して、教職員といっしょに旗をつくったり行進したりしています。

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